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筆の通り道
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たよりなく弱いはずの穂先が角度を保ち
潤沢な墨液が半紙に浸みこみながら進む
それは、風を受けて、果てしない海原を
すべっていくような心地よさだ

自分と、筆と、墨と、紙が、
絶妙の均衡を保って融合していく
どこにも不要な力が入らず、頑張りすぎず
解放されている感覚
人に頼ることは難しいのに
筆になら委ねられる


***

中学校での習字の時間以来、筆を持ったことはないけれど、美しい文字と、書に向きあう精神性へのあこがれがあり、それを持たない自分に対するもどかしさがあった。

茶、華、書、武…… 「道」がつくものは、学びに終わりがないと聞いたことがある。

その道に、五十歳を過ぎたこの歳から、いまさら、始めてしまうのか。もっとほかにエネルギーを注ぐべきことからの逃避ではないのか。そう自問自答しながら、教室に誘っていただいたご縁を必然の導きだと感じて、申込書を提出した。

さっそく送られてきた入門の概要を一読した瞬間、「しまった」と思った。
月に一度のお稽古を、まるでセラピーを受けるようなものだと気軽に考えていたのだ。
月に一度、出向いた教室で精神修養することは心が躍るけれど、「練習」が必要となると話は別だった。

(時間が捻出できるだろうか? それは、楽しいこと? そもそも、どこで書くの?) 

硯をおいて、墨をすって、心を落ちつけて、半紙に向かいあうための、おそらく風呂敷一枚分ほどの「更地」。
頭の中に自宅の各部屋を思い浮かべていくが、見当たらない。高校3年生と中学3年生の子どもたちの、宿題スペースと化しているダイニングテーブルを、二人がいない時に使うしかないだろう。
〈やるとしての話だが〉などと思い、ネガティブモード全開のまま、初回のお稽古に参加した。

筆は、箸と同じ持ち方で、垂直に立てずに斜めに持つと教えていただいた。
筆の面には「」と「」があり、横の線を書くときは「裏」を使い、縦の線は「表」を使って書くのだということも。

「裏」を使って書くということがよくわからず、できているのかいないのかもわからないまま、そればかりを練習していたのだが、幾度目かで、体感できた。

〈ああ、もう、やめられない〉と思った。
そのくらい、心地いい。

筆に全体重を預けるなんて、物理的にはできないと思う。少し力を入れるだけで、簡単に穂先がつぶれてしまうだろう。だけど、「裏」で書いていると、自分の全てを預けている感覚になる。

無になって、気負いを手放し、委ねているという感覚。

たよりなく弱いはずの穂先が角度を保ち、潤沢な墨液が半紙に浸みこみながら進む。
それは、風を受けて、果てしない海原をすべっていくような心地よさだった。

自分と、筆と、墨と、紙が、絶妙の均衡を保って融合していく。
どこにも不要な力が入らず、頑張りすぎず、解放されている感覚。
人に頼ることは難しいのに、筆になら委ねられる。


本能的に、自分にはこれが必要だとわかった。

帰宅してから、書道教室の生徒さんがフェイスブックに投稿されている文章を読み、その気持ちはゆるぎないものになった。

書かれていたのは、〈先生に手をとってもらうと、字が呼吸しはじめる〉ということ、〈字をかくとき、筆のちゃんとした通り道があり、それが、理にかなっていて、美しい〉ということ、そして〈自分の書いた字が、ちゃんと息をして、生きられますように〉という願いだった。

そのような感覚を持っていらっしゃるかたが、教室にいる。
お話をしてみたい。一緒に学びたい。私も、呼吸をはじめる文字が書きたい。もっともっと無になって、委ねて、筆の通り道のままに、導かれていきたい

すでにその感覚を味わっているような気持ちになった。
そのかたに限らず、学ばれている皆さんは、たたずまいが美しい。書のみならず、人に惹かれていく気持ち。

墨の香にも、癒されていた。調べてみると、墨は、松や植物性の油を燃やしてできる煤を、動物性のタンパク質である膠(にかわ)で固めたものだそうだ。
半紙は植物からできている。筆は動物の毛だ。半紙に墨が吸着するのは、膠のはたらきだという。

書の道具には、植物と動物の命が宿っているのだ。
                                            
浜田えみな

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浜田 えみな

Author:浜田 えみな
こんにちは! ブログに来てくださってありがとうございます! H11生まれの長男と、H14生まれの長女の二児の母です。文章を書くことが好きなので、フルタイムで仕事をするかたわら、あれこれ書いています。H26年8月に薦められた短歌にハマり、現在その世界観を模索中です。よろしくお願いします。