FC2ブログ
<<03  2020,04/ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  05>>
Style3 『caramel pudding』
きゃらめるj ← クリックで拡大


「あなたは、
あなたのままでいいんだよ」
「どんなひとも、
必要とされて生まれてきたんだよ」
「だれかのために使える、
そのひとだけの力をもっているんだよ」
「その力が必要な人が、
あなたを待っているんだよ」



*    *    *

プリンミックスの箱に入ってる粉末を溶いて作っていたカラメルソースが、砂糖と水を鍋で煮詰めて作るのものだと知ったのは、十八歳の時だった。
無色透明の液体が、鍋で香ばしく甘い匂いを発しながら褐色に色づいていく。

(えーっ こんなふうにつくるんやー)

牛乳と卵と砂糖の比率も黄金比のようなものがあり、いちいち重さを量って、卵液の計測をさせられた。
カラメルソースには、容器から出して皿にあけたときに、きれいに分離するための、卵液に対する最適の比重があり、それに近づけるための目視による形状の目安が指示されていたから、焦がさないように、こまめに鍋をゆらして、一秒たりとも気が抜けないデリケートな作業だった。

今は、いろんなプリンがあるけれど、当時のプリンは、帽子のようなカラメルソースをかぶっているのが定番だった。見た目だけの「スタイル」なのだろうと思っていたら、

「風味や彩をよくする意味もありますが、足りない甘味を補うためです」

と教授が言うのでビックリした。
砂糖濃度が高くなると、凝固力が減り、型から出したときに形を保てなくなるので、十五パーセント以上には増やせないのだという。
調味料は、味をつけるためのものだと思っていた私にとって、調理が、さまざまな有機化合物の化学変化であり、すべて化学式であらわすことができると知った講義は、本当におもしろかった。
調理は化学なんだ。消化も。吸収も。

初夏の蒸し暑い日、古いC校舎の実験室で、砂糖濃度を変えた卵液と、比重をかえたカラメルソースをいくつも準備し、鶏卵の栄養と性質と調理についての講義の一環として、さまざまな形態の蒸しプリンを、笑いころげながら、ひとさじずつ、みんなで食べた……

三十年近く前のことなのに、昨今のブームで、きゃらめるスイーツのレシピを見かけるたびに、となりの班の、とんでもないプリンだとか、こげこげのカラメルソースだとか、スのたちまくったスカスカのプリンだとか、もう名前も思いだせないクラスメイトの笑顔だとかいう、短大の一コマを、なつかしく思いだしていた。

とろける甘さと ほろにが。

*    *    *

どんなときに、消えてしまいほど、自分がイヤになるだろう?
だれかの期待にこたえられないとき? なににも頑張れないと思うとき?
だれかを憎むとき? だれかをゆるせないとき? だれかに愛されたいと願うとき?
かなえられない望みを抱いたとき? 

だれかってだれ? 

だれに愛されたいの? だれに必要とされたいの?
だれに信頼されたいの? なにを信じたいの? なにが偽りなの?
だれのせいにしたいの? だれに甘えたいの? だれにゆるされたいの?

だれかってだれ?

だれなんだろう? 自分なんだろうか?
なにが足りないから、こんなに不安定なのだろう? 

ぐちゃぐちゃの部分を、合わせ鏡のなかに隠すように沈めて、そのことに耐えられなくて、やりきれなくて、どこかへ行きたくて、どこへも行けなくて、なにかをやりたくて、なんにもできなくて。

それでもいいんだと、きゃらめるぷりんは、揺れている。

焦げつくほどの激しい想い。
透明から、褐色に変化するほどの、耐えがたい想い。

悔しいことや、悲しいことや、寂しいことや、情けないことや、つらくて這い上がれないような想いが、もしもあっても、それは、なくてはならない、ほろにがなソース。

きゃらめるスイーツが、あんなに多くの人に愛されているのは、ほろにがだから。
とろける甘さと手をつなぐから。
舌さきから、のどもとから、すべりおちて、誰の心にもある「苦さ」や「痛み」と、どんどん手をつないでいくから。
よりそっていく。癒していく。
つつんでくれる。

「あなたは、あなたのままでいいんだよ」
「どんなひとも、必要とされて生まれてきたんだよ」
「だれかのために使える、そのひとだけの力をもっているんだよ」
「その力が必要な人が、あなたを待っているんだよ」

きゃらめるだから、できること。
きゃらめるにしか、できないこと。

どんなに悲しいときも、どんなにつらいときも、元気にしてくれる。

ひとさじの、きゃらめるぷりん。
とろける甘さと、ほろにが。
舌さきから、のどもとから、すべりおちて……

ささやく。

「あなたを待っている人がいるよ」と。

浜田えみな
スポンサーサイト



テーマ : 物書きのひとりごと
ジャンル : 小説・文学

Secret
(非公開コメント受付中)

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
ご連絡はこちらから
鑑定の予約・質問・感想など、お寄せください。

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
プロフィール

浜田 えみな

Author:浜田 えみな
こんにちは! ブログに来てくださってありがとうございます! H11生まれの長男と、H14生まれの長女の二児の母です。文章を書くことが好きなので、フルタイムで仕事をするかたわら、あれこれ書いています。H26年8月に薦められた短歌にハマり、現在その世界観を模索中です。よろしくお願いします。