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まなざし ~林忠彦 上村淳之~


この一瞬を逃したくない
絶対にあきらめない

その答えが、目の前の刹那に
とまった時間の中を、
深く深くおりていくような、趣…

その根底に流れるまなざしに、共振していく


*    *    *

八月の終わりに、林忠彦という写真家の 没後二十年にあたって開催された作品展を観に行った。
チケットを買って中に入り、展示作品の前に立ったとき、入口で受付カウンターの職員に向かって話しかける老人の大きな声が聞こえてきた。

「写真家の腕がいいんじゃないんだよ」

(つづく言葉は……?)

(被写体がいいんだよ? 被写体の表情がいいんだよ? 被写体の人間力だよ? ……)

報道写真家としてデビューした林忠彦の今回の写真展のテーマは八つ。

カストリ時代
昭和のスターたち
日本の作家
小説のふるさと
日本の画家
日本の家元
長州路
東海道


「カストリ時代」というのは、終戦後、戦災孤児や焼跡など戦後間もない東京の風俗を撮影したもので、順番に写真をみていくだけで、当時の日本や人々の復興のエネルギーや空気感が伝わってくる。カストリというのは、当時の粗悪な密造酒のこと。

「昭和のスターたち」 ~ 「日本の家元」 までは、肖像写真だ。
「長州路」~「東海道」は、晩年の風景写真。

―写真家の腕じゃない、被写体がいいんだよ 被写体が― 

そんなふうにつづく言葉が浮かんで、声の主を振りかえると…

「カメラがいいんだよ。高いカメラだろ。ドイツ製だろ。いいカメラがあれば、だれでも撮れるんだ」

と言うので、ずっこけそうになった。どんなすごいウンチクが聴けるのかと思って、期待していたのに(笑)

*    *    *

『犬を負う子どもたち(参謀本部跡 三宅坂) 一九四六年』という写真がある。
林忠彦氏の言葉が添えてあった。

―自分の食いものもろくにないというときに、イヌに食べものを分けてやっている。
こういう優しさをもった子供がいれば将来の日本はまだ大丈夫だと気を強くした―


この光景が、報道写真家として、日本を記録しこうと、林氏に決意させたのだという。
林氏のまなざしの原点。

戦後という恰好の状況が目の前にあったとして、そこから、何を感じるか。どう受けとるか。何を切りとるか。どう伝えるか。
感じとったものが大きければ大きいほど、深ければ深いほど、それを自らの表現で還元する手段に苦悩し、その過程でアートが生まれていく。

作家のオリジナリティは、表現手段ではなく、「感じる力」だ。
観るものは、作品を通して、その根底に流れるまなざしに、共振していく。

*    *    *

二つ目のテーマである「昭和のスター」は、芸能界やスポーツ界の人物のスナップ写真やポートレイトだ。
俳優・歌手・スポーツ選手・映画監督などの、

(え、若い!)
(うそ、かっこいい! 精悍!)
(きゃー かわいすぎるー)
(めちゃしぶい!) 

という表情のなかに、ぐっと押し寄せてくる内面的なものがあって、動くことも、目をそらすこともできない。
決して、被写体の外面がもつビジュアルの美しさだけではない強さ。
これが、カメラマンと被写体の、一瞬間の魂の対決の証なんだろうなあと思う。

「日本の作家」、「日本の画家」、「日本の家元」…… とつづくコーナーのうち、「家元」と呼ばれる人たちの風貌に見入ってしまった。

日本の伝統文化を支えてきた、何百年もつづく世襲制。今、そのヒエラルキーの頂点に立つ人たち。
生まれたときから決められている道。与えられたものも、背負うものも、拓いていく道も、立つ場所そのものが、ちがいすぎる人たち。

人生は一度で、過ぎゆく時間も同じで、人の価値に優劣などないけれど、それでも、なんて違いすぎる時間が、流れている特殊な人たちなのだろうと思う。

自分が今、とらわれていることなど、小さいことだと思う。振りかえると、たかだか自分の影だけだ。なんとでもなる。

室町時代からひきつがれているようなものが、延々と連なっていたら、とても立ってなどいられない。逃げだしたくなる。それでも、凛と背筋を伸ばす家元たち。日本の伝統文化を伝える魂。

*    *    *

―人物写真ばかり撮っていると、風景も撮りたくなるものだ―

林氏の言葉が添えてある。

―風景を撮っていても人物を視る目になっている自分を発見する―

林氏は、心の底から、人が好きなんだと思った。

そう思って写真を見ると、風景写真のなかに、人が浮かびあがってくる。生活が浮かびあがってくる。
何百年もその地で、時代を生きた人が踏み固めた道であったり、愛でた花であったり、眺めた海であったり、空であったり。

遺作となった『東海道』は、肝臓がんで余命を宣告され、脳内出血による半身不随、車いすで、四男とスタッフらの協力による、不自由な体による撮影だった。

“この一瞬を逃したくない”
“絶対にあきらめない”


林氏が伝えようとしたものを、今、わたしは、どのくらい受けとれるだろうか。

***

阪神尼崎駅から、難波へ向かう。
阪神電車に乗ったのに、降りたら、近鉄難波駅だったので、びっくりした。乗り入れしているなんてすごい。

CIMG4632_convert_20110826002338.jpg

難波駅から、山王美術館で開催している「藤田嗣治展」に向かう。
山王美術館は初めて訪れる。ホテルモントレ グラスミアの二十二階にあるという。
すごーい。ホテルだホテルだ。心配りのゆきとどいた施設と、気持ちのよい、非日常な空間。
ほんの少し、電車に乗るだけで、何回かまばたきをする間、エレベーターに乗るだけで、扉の向こうに、広がる別世界。
一時間後には電車に乗らなければいけないので、ゆっくりしていられないのだけど、こんなところで、絵画を鑑賞して、ティールームでお茶をするのも、心の潤い・都会のオアシスだろうなあ。(わたしの性格上、やらないと思うけど)

眼下に、大阪の街が広がる。

藤田氏は、数年前に京都で開催していた藤田嗣治展を観てから、惹かれる画家になった。
一人の画家の生涯を追う展覧会の醍醐味を知った。
熱烈なご婦人のファンの人が多く、京都の展覧会も入場制限されるほどの混雑だったことを覚えているが、この日も、熱心なおばさま二人が、さっそく学芸員に話しかけているのを、ダンボ耳で収拾する(笑)

美術館の名前の由来は、スペイン語で「山の王」という意味のある「モントレ」を直訳したもの。
ホテルモントレは、資産として絵画を多く所蔵しており、京都のホテルでは、ホンモノのルノワールが飾ってある。
美術館がないので公開する機会がなかったが、二年前に美術館ができたので、少しずつ展示している、などなど。

おばさまたちの嬌声が耳につくので、別の部屋に退散する。山王美術館は三室構成で、日本画・洋画・陶器のコーナーがあるのだ。
入口左手にある日本画の部屋に足を踏みいれると、上村淳之氏の花鳥画……

(これこそ、癒しざんす!)

別世界。
色。線。表情。空気。

写真では表せない趣だ。日本画でしか描けない日本人の感性だ。
油彩では、ぜったい無理。実際の風景を目で見たとしても、わたしたちには、無理。このスタイルで、ここに切りとられて表現されているから、感じとれるもの。

(そうか。作品って、そういうことなんだ!)

上村淳之氏が自然の中で感じとったものを、わたしたちにも受けとりやすいように、変換してもらっている。
鳥や花や自然たちの言葉を、翻訳してもらっている。
その答えが、目の前の刹那に。
とまった時間の中を、深く深くおりていくような、趣…

次に、上村松篁氏の作品があり、あれあれと思っていたら、上村松園氏の美人画が出てきた。
親子三代だったのだ。
淳之氏は、松園氏の、なんと、孫! そうだったのかー。

奈良の学園前に、松伯美術館がある。松園氏の美人画の世界しか知らなかったが、花鳥画に、こんなに癒されるなんて思わなかった。しみいるような静謐さと静寂に、久々に心が洗われた。
ぜひ、行こう。 近いうちに!

*    *    *

東山魁夷の作品も数点、展示されていたけれど、この日は、花鳥画の線の繊細さや、花びらや、草や、樹木や、雪の質感などに、心を奪われた。
ガサガサした、あわただしい生活をしているからだろうか。

今日だって、朝から、一時間ほど電車に乗り、尼崎で写真展を観て、難波に向かい、ホテルの美術館で絵画展を観て、このあと、また地下鉄に乗って、「ことだま研究科」を受講する。そもそも、メインの行事はこれだった(笑)
朝から休暇を取ることにしたので、少しでも多くのことをしようとして、つめつめに予定を組んだ。
時間なんて、たっぷりある。いつでもどこでも行けると……
なぜ、思えないのだろう。

というわけで、ホテルモントレ グラスミアのエレベーターを降りてから、地下鉄まで猛ダッシュ。
天満橋という駅で降りて、山下先生の「ことだま研究科」のレクチャーを受けたあと、もう一つ予定があり、美容室でパーマをかけたのだった。

あと十五分ずつでいいから、それぞれに時間の余裕があれば、よかったなあ(笑) 難波なんか、すごく久しぶりだったのに。かわいいショップもあったのに。モノとの出会いも一期一会なのに。

*    *    *

尼崎の林忠彦展のミュージアムショップで、なぜか、篠山紀信氏の「樋口可奈子」の写真グラフが置いてあって、手にとったら、あまりに初々しく、ややエロチックで魅惑的で、とても清純で美しい樋口可奈子から、目が離せなくなり、思わず、じっくり二回、観てしまったのが、時間が足りなくなった原因だ(笑) 
樋口可奈子みたいに、年を重ねたい。

コツメが、三日間気づかなかった パーマの話は、次回!

浜田えみな
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テーマ : 物書きのひとりごと
ジャンル : 小説・文学

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浜田 えみな

Author:浜田 えみな
こんにちは! ブログに来てくださってありがとうございます! H11生まれの長男と、H14生まれの長女の二児の母です。文章を書くことが好きなので、フルタイムで仕事をするかたわら、あれこれ書いています。H26年8月に薦められた短歌にハマり、現在その世界観を模索中です。よろしくお願いします。