FC2ブログ
<<01  2020,02/ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  03>>
プール、質と量、そして伸びしろ、ビーチボール
(あああ、いやだいやだいやだいやだ)
(ぜったい、熱中症になる)
(ぜったい、顔がシミだらけになる)
(ぜったい、紫外線を防げない)
(今まで、死守してきたのに)
(どうやったら、紫外線から肌を守れるだろう?)

(あああ、暑い暑い暑い)
(あせもができる)
(脱水症状になる)
(六時間???)
(耐えられるだろうか)
(あああ、いやだいやだいやだいやだ)
(いやだいやだいやだいやだ)


*    *    *

久々の子どもネタです。
うちのおじょうさま・コツメ & ぼよよん王子・リクト & たまにハハする浜田の熱い一日。
長くなったので、目次を掲載します。
プールで起こった二つのビーチボール事件(笑)
リクトのことが読みたい人は「質と量」からです。


目次

◆市民ブール無料開放デー
◆完全無欠のプールサイド
◆ビーチボール事件その1
◆ふんだりけったり
◆質と量
◆ビーチボール事件その2
◆伸びしろとは


*    *    *

◆市民ブール無料開放デー

「おかあさん、7月13日は市民プールがタダやから、行ってもいい?」
「いいよ」

(てんちゃんに頼もーっと)

「Mたちと行ってもいい? おかあさん、行ける?」

(ええーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!)

「Mのお母さんは行けるって言ってるけど、一人やったらちょっとしんどいなって言ってるねん。お母さん、行ける?」
「何人で行くの?」
「五人」
「! そら、あかんわ……。コツメ、おかあさんに行ってほしい?」
「うーん。どっちでもいい」
「うーーーーーーーーーーーん。行きたくない! 行きたくないけど……行く!」

プールは、ずっとてんちゃんにまかせてきたのに、五十歳を目の前にして、なんで今さら、炎天下の屋外プールに(泣) しくしく。

新陳代謝の活発なコツメたちは、真っ黒に日焼けしたところで、一皮むければ、また、若々しい皮膚が再生されるだろうけど、

浜田の顔には明日はない。

劣化の激しい四十代後半の、想像を絶する皮膚のダメージを想うと、トホホな気分だ。
残り数十年を、シミだらけの顔ですごすのと、コツメとすごす夏の一日と、ほかのお母さんたちとの人間関係は、ハカリにかけられるものなのだろうか? 

自分の顔を選択しろ、ハマダ。

と思いつつ、外面のよさはピカイチの浜田のくちびるは、ニコニコと二つ返事で引率隊を志願してしまうのだった。

(おーまいがー)

市民プールは校区外なので、子供たちだけで遊びに行くことができないのだ。
引率隊のMちゃんのお母さんとは、ふだんから仲良しなので、さっそく密談。

「涼しい午前中に行ってきて、さっさと帰らせます?」
「なんか、一日中いるって言ってますけど」
「えーーーーーーー、むりむりむり!」
「みんな、自転車で来るんでしょうか?」
「あの坂は、キョーレツですねー(泣)」

その後、Kちゃんのお母さんが仕事の前に、みんなをプールまで車で送ってくれ、3時~3時半の間に迎えに来てくれることになった。当日は9時30分にKちゃんの家に集合だ。
プール滞在時間は6時間ほどだろうか?

(それまで、置き去り)
(なにがあっても帰れない)

市民プールの無料開放の日が近付いてくると、だんだん憂鬱になっていた。
7月に入り、急に猛暑になった日本列島。ニュースでは、連日、40度近い最高気温が記録され、熱中症でかつぎこまれる人たちが何百人も出ていた。
職場で、5分ほどの距離に書類を取りに行くだけで、サウナにいるような熱線を浴びて倒れそうになっているというのに、日陰のないプールサイドに数時間もの間、いることができるのだろうか?

(あああ、いやだいやだいやだいやだ)
(ぜったい、熱中症になる)
(ぜったい、顔がシミだらけになる)
(ぜったい、紫外線を防げない)
(今まで、死守してきたのに)
(どうやったら、紫外線から肌を守れるだろう?)

(あああ、暑い暑い暑い)
(あせもができる)
(脱水症状になる)
(六時間???)
(耐えられるだろうか)
(あああ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ)

Xデーまでに、効果の高そうな日焼け止めを物色し、熱中症対策には、何日も前から数本のペットボトルに熱中症対策の粉末ドリンクを溶いて凍らせ、完全防備の紫外線対策ウェアを用意した。

実はこっそり、大雨にならないかと雨乞いもした。台風がきてもいいとさえ思った。
でも、無料開放デーが雨で流れたら、別の日に有料で連れていかなければならないことは必至だったので、それなら、タダの日に終わってしまったほうがいいのだった。

そして、希望の光が訪れる。
週間天気予報では、どうやら曇り。そして雨のマークまで!

(わーい)

◆完全無欠のプールサイド

というわけで迎えた当日は、朝から快晴。曇りの予報はウソだった(泣)
着替えて準備をするだけで、すでに汗だく。

遅れそうになりながら、Kちゃんの家に着くと、庭先まで歓声が漏れていた。

(うちが最後だろうか? きゃー)

と思ったら、まだ、AちゃんとHちゃんが来ていないので、中であがって待っててくださいとのこと。
お言葉に甘えて、おうちにおじゃまする。
玄関先には、すでにふくらませた大きな浮き袋が三つ! 

Kちゃんのお母さんの話によると、去年の無料開放の日は、入場前から長蛇の列ができて、なかなか入れなかったとのこと。プールは9時から開園だ。
Kちゃんのお兄ちゃんは、朝8時15分に迎えに来た友だちと一緒に家を出たそうだ。
女の子チームはのんびり。
待っている間に、コツメも浮き袋をふくらませておくことにする。

一緒に行くMちゃんとKちゃんは、保育園から同じなので顔見知りだけど、初めて会う子もいる。
ものすごい美形の子がいたりして、どきどきする。

まっすぐに見つめられて
「だれのお母さんですか?」
と尋ねられ、

「コツメのお母さんです。よろしくね」
と、自己紹介。

リクトとわたしは、子どもたちの目から見ても顔がそっくりらしくて、授業参観などに行くと、知らない子からも
「リクトのお母さん?」
と言われてしまうのだけど、どうやらコツメには似ていないようだ。

Kちゃんのお母さんが出してくださった冷たい麦茶がおいしい。和む和む。もう、ずっと、この冷房の効いた部屋で、まったりしていたい!!

「浜田さん、完全防備ですねー」
「わざわざ、買いに行ったんですよー。今日のために!」

スポーツブランドの速乾性のハイネックウェアで、アームカバーまでついている。
しかも、自転車用のサンバイザーは、溶接工のように顔面を覆うもの。
はっきり言って、外観は怖いと思う。
そうまでして、プールに行くなよって感じだけど、しかたがない。

Mちゃんのお母さんも、ユニクロに買いに行ったという、ボーダー柄のロングワンピースと、UVカットのフルジップパーカーで、全身をカバー。足元はクロックス。

「いざ、出陣」の様相。
大きな荷物のほとんどは、飲み物と食べ物だ(笑)
ディレクターズチェアまで持ってきてくださった。

「テントも持ってこようと思ったんですけど、たぶん、今日は満員で張る場所がないと思って」
「ありがとうございます! タオルかぶって日傘の中にいたらいいですよね」

(ああ。窓から見える陽射しが強い。影が濃い。どうなることやら)

子どもたちは、おおはしゃぎだ。
ふくらましかけて、時間切れで断念した大きなシャチがのびている。
子どもたちが泳いでいる間に、Mちゃんのお母さんと空気を入れることにして、ぐったりした姿のまま抱えてクルマに乗り込んだ。

(それにしても、デカすぎる)

*    *    *

三連休の初日だったせいか、思ったより混雑していない市民プール。
運よく、備え付けの大型バラソルの近くにシートを敷くことができ、日陰の中に入ることができた。
雲が活発に動きだしていて、風もほどよく吹き、太陽も出たり入ったり。
数日前の猛暑を思うと、夢のように快適だった。

市民プールは一時間に一度、安全管理のために全員をプールからあげて点検をするため、そのときだけはどこからか戻ってくるけれど、あとはナシのつぶての子どもたち。
一緒に遊ぶ友だちが五人もいたら、親なんて必要ないのだ。
戻ってきても、話しかけてもくれない(笑) わたしたちは完全無視。視界に入っていない。
隣に敷いたビーチマットに思い思いに座り、水筒のお茶を飲み、お菓子を食べ、遊泳開始のベルが鳴ると、プールに駈け出していく。

「わたしたちって?」
「荷物番?」

*    *    *

リクトは、陸上クラブの朝練で早朝に出かけていったけれど、クラブ活動が終わったら友だちと来ると言っていた。どこかにいるはずなのだけど、探しに行く気力もない。

いやー、久々に来ました。市民プール。自分がこの場所にいることが信じられないな。

みまわすと、お父さん率が、けっこう高い。メタボなおなかで頑張っている。
造波プールの波打ち際に、トドのように寝転んで、ほとんど動かない人もいる。

若いお母さんたちも水着で頑張っている。
水着をつけずにプールサイドで座っている人は数名だった。

(みんなすごいなー)

めっちゃパワフルなおじいちゃんがいて、強靭なバネのような身体で、孫たちとビーチボールでバレーをしている。ウェアも決まっていて、ふだんからジムで鍛えているという感じの逆三ボディ。
顔も赤銅色で精悍な感じ。ホレボレとみとれてしまった。

「けっこう、涼しくてよかったですねー」
「もう、暑くて熱くて会話もできないと思っていました。こんなのだったら、わたしたち用に“高級オヤツ”を持ってきて、お茶したらよかったですね」
「あ! 赤ちゃん、かわいいー」

やっと、立てるようになったばかりの女の子が、プールサイドでしりもちをついた。

「わたし、Mがあのくらいの時から、プール連れてきてました。毎週来てたころもありました! かわいかったなー」

Mちゃんはひとりっこなので、おとうさんもおかあさんも、それはそれはかわいがっている。
小学校4年生のとき、Mちゃんとコツメはスポーツクラブのスキーに参加したのだけど、おとうさんがものすごく寂しがって、帰ってくるまでずっと、Mちゃんがどうしているか気にされいたと聞いたことがある。
うちは、てんちゃんもわたしもリクトも

(コツメがいないと、静か! 空気がざわざわしていない!)

と感動したけれど、不在を寂しく思った人は誰もいなかったと思う(笑)

それにしても、小学校5年生ともなると、女の子の肢体はスラリとのびる。
コツメは、てんちゃんとは十センチ以上、身長の差があるけれど、てんちゃんより足が長いのだ。

(いいなあ~)

とホレボレする。

◆ビーチボール事件その1

楽しく遊んでいた五人だけど、とつぜん

「ビーチボールがない!」

と言い出した。

みんなが

(誰かが持っているだろう)

と思って、最終管理をせずにあちこちのプールに遊びに行ってしまうのだから、しかたがない。

「名前書いてる?」
「書いてない……」

Aちゃんの持ってきたサッカーボールの模様のビーチボールは、市民プールの売店のものなので、見渡すだけで、同じビーチボールが何個も見える。
そのあたりに転がってきたビーチボールで、つい遊んでしまう子供たちがいても不思議ではない。
名前がなければ、確かめようがないのだった。

Aちゃんが、とっても沈んでしまったので、場の空気が重くなる。
Mちゃんのお母さんが、落し物が届いていないか、監視員さんのところに聞きに行ってくれた。
それによると、まだ届出はないけれど、みんなを水からあげたときに所在不明のボールがあったら、取り置きしてくれることになった。
それで、ちょっと気をとりなしたAちゃん。また、みんなと遊びを再開。

「見つかりますかねぇ……」
「同じの何個もありますもんねぇ……」
「スイカのもいっぱいありますね」
「誰が誰のかわからないですよね」
「転がったまま置き去りにされていたら、子どもだったら、使っちゃいますよね」
「今は遊んでいても、自分のじゃなかったら、置き去りにしていくと思うんですけど」
「Aちゃん、すっごい悲しそうな顔してましたねぇ」
「見つかるといいですねぇ……」

これがコツメだったら、「ちゃんと管理していないから自分が悪い」と言ってあきらめさせるところだけど、よその子だと、こういうとき、どうしていいのか、本当に困る。
小さな子が悲しそうな顔をしているのは、胸が痛むのだ。

で、次のラジオ体操タイムに、監視員さんのところに聞きにいくと、持ち主不明のサッカーボール模様のビーチボールが一つあるとのこと。名前がないので特定はできないけれど、それをまわしてもらえることになった。

(よかったよかった!)
(Mちゃんのお母さんって、すごい)

◆ふんだりけったり

二時を過ぎたころから、空模様が怪しくなってきた。まだ、青空は見えているけれど、遠くの空が真っ黒だ。
雷の音も聞こえてきた。
「雷が20キロ圏内に検知されたら遊泳禁止になります」という放送が繰り返しかかり、プールを切り上げ、更衣室に向かう人の群れができている。

まだ、遊泳可能なので、うちのおじょうさまたちは嬉々として遊びまわっている。
雨が降り出しても大丈夫なように、散らかしほうだいの子どもたちの荷物を片付け、近くに集めておく。

Kちゃんのお母さんが、差し入れのアイスと飲み物を持って陣中見舞に来てくださった。
駐車場がいっぱいで入れないので、いったん戻って3時すぎに路肩に停めて待っていると言ってくださり、帰っていかれた。

マットの上にねそべっているのは、でっかーーーーーーい、シャチ。
Hちゃんが持ってきた特大サイズ。ポンプを使っても、なかなかふくらまなかったものだ。
このままでは大きすぎてクルマには乗せられない

「空気、抜いておきます?」

というわけで、不穏な黒雲に覆われはじめた空の下、やや強い風が吹いてきたプールサイドで、Mちゃんのお母さんと浜田は、せっせとシャチの空気抜き。子どもたちは最後のプール時間を楽しんでいる。

(わたしたちって?)

召使や女中は給料をもらえるから、それ以下だ(苦笑)

「もう、使いませんよね?」

ほかの浮きぶくろや、くだんのビーチボールの空気も抜いておく。
待っていてもヒマだからやっているけれど、こんなに甘やかせていいのだろうか?

*    *    *

ようやく戻ってきた子供たちをうながし、帰ることになった。目を洗ったり、シャワーを浴びたり、プールをあがるときの恒例行事が懐かしい。
蒸し暑い更衣室は、まだ、混雑していなくて助かった。
子どもの着がえなんて、すぐに終わるのだろうと、荷物を抱えたまま、通路で子供たちの着がえを待っていたのだけど、

(遅すぎる!)

スナップ付きのバスタオルをマントみたいにはおって、その中で着替えをしているのだけど、とにかく遅い!
めんどうくさいことをせず、さっさと着替えろ! と怒鳴りたい気持ちだけど、胸もちょっぴりふくらんでいる五年生なのでしかたない。

「わたしたちが小学生のころって、あんなバスタオルなかったですよね」
「すっぽんぽんで着替えてましたよね~」

そんなことを話していたら、足の甲に何かが起こった。衝撃というほどのものでもない。

(え? 踏まれた???)

踏まれたにしては「軽い」し、「スナップのきいた」余韻が残っていて、いったい何が起こったのかわからなかった。
あたりを見渡すと……

前方斜め下方に、こちらを見ている小さな瞳。
お母さんに手をひかれながら、指をくわえてこちらを振り返っている1~2歳の男の子がいた!

(きみだったのか)

その、ちょっとガニマタの小さなあんよで、おばちゃんの足の甲を踏んでいったのね。
なんのためらいもなく、交互に足を前に出して。
きみの進路に足を出していて、ジャマしてごめんよ~

(つまづかなくて、よかった!)

*    *    *

「早く早く!」

子どもたちのオシリをたたいて、大急ぎで外に出た。ほかにもお迎えの車が並んでいる。
大騒ぎで、Kちゃんのお母さんの車に乗り込んだら、フロントガラスに雨粒が!

「降ってきましたねー」
「小雨だったら、自転車で帰れるかな」

などと話していたのだけど、ついに、ものすごい豪雨になってしまった。
乗ってきた自転車は預かっていただくことになり、申し訳ないことに、みんなを順番に車で送ってくださることになった。
子どもたちの住んでいる場所は、耳で聴いていても、どこのことなのかぜんぜんわからない。
校区内でも、一度も行ったことのないエリアがあるなあと、あらためて思う。

雷も激しくなってきた。
プールにいる間に雨に巻き込まれなくて、本当によかった。

だんだん、言葉数が少なくなり、みんな、充血したうつろな目をしている。
ほっぺたや鼻さきが、乾いて真っ赤に光っている。
肩も腕も足も、ほの赤く、ほてっていることだろう。
とろとろにとけて、すぐにでも昼寝しそうだ。
こんな表情は、小さなころと同じ(笑)

◆質と量

ゆっくり休ませてあげたいけれど、Mちゃんとコツメは、そのあと、塾の夏期講習の説明会があるのだったーーー!!!

小学校4年生までは、夏休みの間、「児童会」「学童保育」などの名称で、学校内にある施設に通うことができるけれど、5年生からはその制度を受けられないので、両親が働いている家の子どもたちは家に一人(野放し〉になる。
そこで、近所の学習塾の夏期講習を申しこんだところ、開講前にガイダンスを受けなければならないと言われ、それがプールの日の夕方からだったのだ。

時間まで様子を見ていたけれど、豪雨がおさまらなかったので、Mちゃんのお母さんが車を出してくれた。
今度はその車で塾へ。
その塾というのは、リクトが中学一年生の二学期からお世話になっている塾だ。
先生は、二十代か三十代前半と思われる。

「おかあさん、ごぶさたしております。リクトくんの入塾説明会の時以来で……。お仕事がお忙しいと聞いておりますので、なかなかお話をする機会もありませんが、リクトくんのお話は、後ほどまた……」

(えーーーーーーーーーーーーーっ???)

ということで、Mちゃんとコツメの夏期講習のガイダンスと手続きが終わったあと、リクトの懇談になった。

中学校の懇談とちがって、塾の懇談は希望制だったので、今まで申し込んだことがなかったのに、とんだ藪蛇でございます。

「おかあさん、もうご存知かもしれませんが」

と、いきなり、入塾してからの五教科のリクトの成績と学校平均などの表と折れ線グラフが差し出された。
確かに、「ご存知」の点数だ。先日、中学校の懇談会でも担任から見せられた。
せっかくなので、気になっていることを尋ねてみる。

「先生、リクトはテスト前でも、勉強せずに遊んでいるんです。どうしてやらないのかと尋ねたら、“もうぜんぶ終わったからやることがない”と言うんです。それなのに、テストの成績はそんなによくない。テスト前にやることって、そんなにちょっとしかないのでしょうか?」

先生の表情がピクンと代わり、

「リクトはそんなことを言ってるんですかー。おかあさん、ちがいます。やることは、いっぱいあります。でも、時間的にぜんぜん無理!という状況になってから、こちらに来て、もうどう頑張っても、全部やるのは無理だから、“最低限やればいいところだけを教えてほしい”と言われて、本当に最低限、ここだけはやらないといけない! というところだけを、しぼりにしぼって考えて提示したんです。その部分が終わったということでしょうか? やらなければいけないことは、山のように あります」

先生は、「やることはいっぱい」で、両手をいっぱいに広げ、「ここだけはやらないといけない」で、それを20センチくらいに縮めるジェスチャーをした。最後にまた、「山のように」で、アコーディオンのように、両手を広げる。
顔は真剣なままだ。

「ええっっっ。リクトは、テスト範囲が山のように残っているのに、先生にダイジェストにしてもらったところだけをやって、終わったって言ってるんですか????」

(わが子ながら、その発想が信じられない)

「だったら、時間が余ったら、残りの部分をやればいいのに、どうしてやろうという気が起こらないのでしょうか???  テスト期間中は、二時間くらいで終わって帰ってくるのですが、昼間は友だちと遊んだりしていて、私が仕事から帰ってきても、まだ戻ってないこともあるんです。塾以外では、ぜんぜん、勉強しません」

「おかあさん、たしかに、リクトは、勉強しているとは言い難いです。だけど、していなくて、この程度の点数が取れるのですから、まだまだ“伸びしろ”があります!」

(伸びしろ……)
(うまいこというなあ)

しかし、ホイホイと同意はできない。

「点数だけを見ると、そんなに悪くはないですが、それは、ヤマカンというか、たまたま、ちょっと見たところがテストに出たとか、カンで書いたら当たったとか、そういう感じみたいで、親から見ても、きちんと理解しているからだとは思えないんです。また、うっかりミスや思い込みで間違えることも多いのも、よくわかっていないから起きるのだと思います。たまたま悪くない点数を取っていても、実力とは結びついていない気がして、信じられないんです」

「おかあさん、“質”と“量”という言葉があります。少ししか勉強していないのに点が取れるというのは、どこを勉強したらいいかわかっているからです。その点で、リクトは“質”のよい勉強をしているといえます。ただし、“量”が足りない。“量”を増やせるようになれば、もっともっと伸びます!」

(質と量)
(そうきましたか)

塾の先生というのは、親の疑問や不安に対して、「ああいえばこう」というノウハウを、しこたま持っているのだと思われる。

ちっとも勉強しない子をつかまえて、「伸びしろ」があるとは、苦肉のホメ言葉だ。
「まだ、本気出してないだけ」ってわけだ。

塾の先生に言われなくても、誰でも親ばかなのだから、自分の子の力は信じたい。
信じているけれども、「伸びしろ」が思いのほか少ない場合や、「本気を出しても及ばない」場合についても、冷静に客観視できる。

(自分と夫の子だしなあ)

と思うわけだ。

あれこれ望みや期待はあるけれど、鳶が鷹を産むわけでなし…… と思うと、あーだこーだという気持ちが消えていく。

本当に、この先、子供たちに必要なことは、なんなのだろう?

吉野弘氏が、「奈々子へ」の詩に書いたように、「健康な身体」と「自分を愛する心」 なのだと思わずにはいられない。
そうしたとき、
向上心も闘争心もないけれど、毎日がとにかく楽しそうなリクトを見ていると、

(ま、いっか)

と思ってしまうのだ。
とりあえず今は。

◆ビーチボール事件その2

リクトが帰ってきた。

「今日、プール行ってた?」
「うん」
「何時頃から?」
「12時すぎから」
「何時までいた?」
「3時20分ごろ」
「雨、大丈夫やった?」
「降られた」

タコヤキ屋さんで雨宿りをして、そこからTくんの家で遊んで帰ってきたというリクト。

「どこのプールで遊んでたん? コツメたちもいたし、お母さんもいてんで」
「どこっていろいろ。ぜんぶ行った。それより、オレはショックやねん」
「どうしたん?」
「せっかく、プールでビーチボール買ったのに、なくなってん。買ったばっかりやのにーーーー」

(え! まさかサッカーボール?)

「どんな模様? サッカーボール?」
「ちがう。スイカ」
(よかったー)

一瞬、Aちゃんの手に返されたボールがリクトのやったのかも! と、どきどきした。
そうだったらおもしろいなと思ったけど、違うかった(笑)

“荷物のところに置いていたらなくなった”というけれど、丸くて軽いビーチボールは風が吹いたら転がっていく。強い風で飛ばされたら、プールに飛び込んでしまう。

名前が書いていなければ探しようもない。Mちゃんのお母さんみたいに機転をきかせて、監視員さんのところに申し出れば、運よく手元に戻ってきたかもしれないけれど、リクトには思いつきもしなかっただろう。
なくなったのは、思う存分、遊んだあとだったというので、不幸中の幸い。

ビーチボールは600円で、負担したお金は、リクトが300円。Nくんが150円。Uくんが100円。 Tくんが50円。それぞれ持ち出し分がちがう。なぜ?
300円出した人は、終わったあと持ち帰れることになっていて、それだったらいいと思って、リクトが多く出すことにしたらしい。でも、なくなってしまったので、一番ソンしたリクトは、おちこんでいるわけだ。

ビーチボールを失くして見つかる子もいれば、なくしたままの子もいる。
人生の縮図のようだ……。

Aちゃんの悲しげに思いつめた顔は、ぜったいに放っておけないという気持ちにさせるけれど、リクトのクサった顔は「自業自得」と一喝したくなる(笑)

女の子は、どんなときも、誰かが手をさしのべてくれるし、男の子は苦難をいとわず、しっかり自分で生きていかなくてはならない宿命に、なっているのだろうなあ。

しかし、よくも悪くも、何事にも執着のないリクト。
勝つことや頑張ることにも馬力が出ないけれど、ネガティブな気持ちもひきずらない。
だから、ぜんぜんうまくならなくても、コーチに怒られまくっても、後輩に抜かされまくっても、楽しくクラブに行ける。それは美点と言えるだろう。

(どう見ても、伸びしろがあるようには見えないし、“質”のよいことをやっているようにも見えない)
(ぼよよん王子)


◆伸びしろとは

(まあ、いいか。楽しそうだから)

などと思っていたら、その翌日。
午前中は、中学校の陸上クラブの練習に行き、午後からは友だちと「遊戯王」というカードゲームの大会に行って帰ってきたリクト。珍しく5時に帰ってきたので驚いていると、

「おかあさん、今日、塾の実力テスト。5時45分に出るからごはん!」
「え? 実力テスト? 何やってんの、あんたはーーーーーーー」

(前日はプール三昧。当日はカード三昧)

「なんで、勉強してないの? 昨日も今日も遊んでばっかりやないの! なんで???」
「実テは勉強せんでいいって先生が言ってたもん」
「ちがうやろー。今まで習ったところを復習して確認するためにあるねんで!」
「そうなん? テストでできなかったところがわかって、それを勉強するためちゃうん?」

(……)

先生、これが 〈“質”のよい学習〉 なんでしょうか???

プールに行かず、カードゲーム大会に行かず、実力テストに向けて勉強をする気になり、“量”をこなせるようになったら、リクトは”伸び“るんでしょうか?

伸びしろどころか、縫いしろがなくてバラバラのまま、何を作ることもできなくて、できあがらないパーツのままって感じですけどーーーーーーーーー!!!

浜田えみな

ビタミンCを飲んで、美白に励む。


スポンサーサイト



テーマ : 物書きのひとりごと
ジャンル : 小説・文学

Secret
(非公開コメント受付中)

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
ご連絡はこちらから
鑑定の予約・質問・感想など、お寄せください。

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
プロフィール

浜田 えみな

Author:浜田 えみな
こんにちは! ブログに来てくださってありがとうございます! H11生まれの長男と、H14生まれの長女の二児の母です。文章を書くことが好きなので、フルタイムで仕事をするかたわら、あれこれ書いています。H26年8月に薦められた短歌にハマり、現在その世界観を模索中です。よろしくお願いします。