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「くずきりふたつ」(京都祇園 鍵膳良房)
「食三昧」のカテゴリは、食べ物に関する感動を
いろいろつづっていきたいです。

第一弾は、京都祇園にある「鍵膳良房」のくずきり。

有名だし、ガイドブックにもよく載っているけど、
一度も食べたことのなかったくずきり。

知らずに店内に入ると、食べ物が入っているとは
思えない、あの円筒形の器に、まず驚く。
でも、ふつうのお茶碗では、あのマジックは
起こりえないのだ。

幽玄の世界へのいざない。

月の光が、清水のせせらぎが、時空を超える感覚が
たしかに、身をつつむ。

どうしたら、表現できるだろうかと
考えに考え、長い長い文章になったけど、
端的にあらわす言葉が、既に存在していた。

日本語って、すばらしい。
日本人って、すばらしい。

「陰影礼賛」

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「葛きりふたつ」

「葛きりふたつ、黒蜜で」
「メニュー見ないの?」
「これしかないねん。黒と白の二種類だけ」
「ふぅん、そうなん」

若い二人。まだ付き合い始めという感じ。
どうやら、彼が、この葛きりを彼女に披露したくて、
連れてきたらしい。
デートだよね。

まわりは、観光客か、年配の「御婦人」で、
入り口には、客が長い列をつくっていて、
とても、おちついて話ができる場所ではないと思うけど。

だいじょうぶなのかなぁぁ~。
信玄弁当を模したという二段重ねの大ぶりの器。
ふたをあける。
月のない墨夜の水面のような静けさで、波の立たぬ蜜。
漆黒にぬれたおもては、舞台の暗転。現実から非現実への扉でもある。
蜜の器をあげる。
美しく妖しい別世界が広がる。
真円で囲まれた世界に、人は、たやすく入り込むことができる。
万華鏡しかり。遠眼鏡しかり。のぞき穴しかり。
そこは、まさにためらいがちに、月がひかりを投げかけた瞬間の、
源流に近い奥深い渓流。
一点のくもりもにごりもなく、
器の内面を映して月夜を呈する純氷の美しさ。
純水の清らかさ。
目をこらすと、ほとんど透きとおり、水と同化していた葛きりが、
さららと流れを作り出し、耳もとに渓流のせせらぎをはこぶ。
岩をけずり、石の角をまるめ、美しいものも、美しくないものも、
留めておきたいものも、放り出したいものも、たえまない流れの中。
生まれたての苔。生命のあぶく。
月のしずくごと、清流の流れごと、舌先にからめとる至福。
あまりにも透明なので、箸ですくい、蜜をくぐらせ、口にいれる瞬間まで、
その形状はわからない。
すいついてくる。からみついてくる。細く平たい短冊の帯が幾すじも幾重にも。
柔らかくありながら、確かな質感と弾力をもち、まといつき、呼応し、
口中で舞い、するりと喉におちていく。

たしかめたいことや、ききとらねばならないこと、
とても大事なことづてを受け止め損ねた気がして、
また口に運ぶ。また口に運ぶ。また口に運ぶ。
だけど、最初のあの刹那ほど雄弁に、葛きりが何かを物語ってくれる瞬間は、ない。
器の中で、白く不透明にその形を沈めた葛きりは、もう、何も語らない。
何も見せてくれないし、どこにも運んでくれない。
だから、早く口に運ばなければ。出来る限り早く。
白く固くなってしまった葛きりを、
一本一本、箸でつまみあげているような食べ方はだめなのだ。

注文を受けてから型を湯煎にかけて透明にし、手早く切りそろえて、
さっと涼水に放たれる葛きりは、円筒の底深い黒塗りの器の内に沈み、
ふたがとりさられた瞬間、目にはうつらない。
瞳にとびこむのは、浮かんだ純氷のくもりない美しさと、涼水のまろやかさのみ。

そんなはずでは……。
葛きりを注文したのに、葛きりは? 
急いて器の中を泳がせる視線がとらえるのは、
月の光がさした瞬間の渓流のような思いがけないすがた。
息をのまされる。
この演出のすばらしさ。
箸をさしいれると、水の深みの中に、たしかに葛きりは、
その透明な姿をひそませていて、ちゃんと、すくいあげることができる。
蜜をくぐらせ、口にいれると、透きとおる甘さの中を、自在に葛きりが泳ぐ。
信じがたいような凛と凍った冷たさと、
もちもちした力強い弾力を、舌や口中に残して。

あっというまに、のどをすべりおちてしまう。
あっというまだ。
月のしずく。おちてとけて流れゆくものすべて。
全てをからめとり、感じ取りたい。
とぎすませた味蕾を総動員し、やっきになるけれど、
きしめんみたいに、うすく平たいかたち(この形状の素晴らしさ!
トコロテンのような割り箸形ではダメだ。わらび餅のような乱切りでもダメだ。
この薄さ、この平たさ、この長さだからこそ、口中で自在に雄弁なのだ)が
わかるのみで、食べても食べても答えは出ない。
渓流のせせらぎをすくいとるとは、月のしずくを食べるとは、そういうことだ。
 
900円は安いでしょ。

20代の私だったら、思えなかったと思う。
自腹を切って食べようとは、無論思わないし、
デートでつれてこられて、たとえそれが人の財布からでも、
900円が支払れることそのものが許容できなかったと思う。
誰の前にも同様におかれた暗緑色のけっこうな大きさの円筒も異様だし、
皆、一様にうつむいて、それをかきこむ姿もヘン。
葛きりの「粋」なんてわからなかった。
そもそも、葛きりには味がない!

彼女がどう感じるかはともかく、
まだ若いのに、つきあいも、おそらくそう深くないと思われる、
幾度目かのデート、もしくは初めてのデートで、
落ちついて話などできないこの店を選び、
彼女が好きかどうかもわからない葛きり……
洋菓子でもなく、和菓子ともいいがたく、
古都を訪れる女の子たちが大好きな抹茶を使ったものでもない……
を食べさせようとしている彼に、おさえがたい興味をおぼえる。
どんなものを食べ、どんなふうに育ったら、
そういうことを思いつく青年になるのだろうか。
よしもとばななの小説に出てきそうな青年。
息子を持つ身として、ぜひ知りたいものだ。

ところで、葛きりを食べ終えても、
和三盆を使った極上の蜜は、まだまだ余る。もったいない。
まろく、くもりのない氷は、手間隙かかった職人技。
葛きりの命というべきの水。
ここはやはり、好みに割って一気飲み。
麦わらをさしいれて吸い上げれば、ほら、ふりそそぐ蝉時雨。

蜜には黒と白がある。
ほとんどの人が黒蜜を選ぶようだが、くせがある黒蜜より、
白蜜のほうが、ずすやかな後口で、品がよく、夏のひるさがりに、
爽涼感をはこぶと感じた。


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祇園の本店よりも、高台寺店のほうが、観光客が少なく、
落ち着いていて穴場とのこと。

機会があれば、試してください。

文章は、2006年8月当時です。

                     (ゆ)のことだまセラピスト
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テーマ : 和菓子
ジャンル : グルメ

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浜田 えみな

Author:浜田 えみな
こんにちは! ブログに来てくださってありがとうございます! H11生まれの長男と、H14生まれの長女の二児の母です。文章を書くことが好きなので、フルタイムで仕事をするかたわら、あれこれ書いています。H26年8月に薦められた短歌にハマり、現在その世界観を模索中です。よろしくお願いします。