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ノープロブレム
CIMG4186_convert_20110124214251.jpg  ← クリックで拡大 リクトが5年生の時に作ったシーサー

何か大きなものに
いつも守られている気がします
そのことに、心からの感謝を

だから、いつも笑顔で


***

「おかあさん、オレら、ここ、入っていいの?」
「えーーーっ いいやろ、そんなん」
「外国、みたいやな」
「うん」

長男リクト(高2・仮名)と初めて入ったインドカレーの店は、店員が全てインド人。そのことには特に驚かないけれど、お客さんもインド人で、日本人はわたしたちだけだったので、たじろいだ。
でも、メニューは日本語だし、大丈夫。
ウェイトレスさんは、彫の深いキュートな顔だちに、豊満なボディ。若い。
今日の日替わりカレーは何かと尋ねると、「ジャガイモトシメジ」と、かたことで返ってきた。

(じゃがいもとしめじ!)

「おいしそう!」

単品カレーのほかに三段階の価格設定のA~Cセットがあり、ナン・ごはん・サラダ・ドリンク・タンドリーチキンのほかに、五種類のカレーの中から二種類が選べるBセットにした。

チキンのカレーが二種類あったので、キュートな彼女に違いを訊ねたところ、厨房にインドの言葉(ヒンドゥー語?)で話しかけ、何やら会話をしていたけれど、申し訳なさそうに

「ワカリ、マセン」

と言われてしまった。たぶん、違いを説明する日本語がわからないということだろうと理解した。

リクトは、ほうれんそうのカレーとキーマ・たまごカレー。
わたしは、日替わりカレーとほうれんそうのカレー。

店内は、インド雑貨のお店のような雰囲気につつまれ、テーブルクロスの色彩も模様も、とてもエスニック。
モニターでは無音のインドのミュージックビデオが流れ続けている。
壁に並んだお酒のラベルもコーラの瓶も日本では見慣れないデザインなので、リクトが「外国みたいだ」というのもうなずける。

(ドリンクは何にしようかな……)

「チャイは……」
甘いですか? と尋ねようと思ったら、即座に
「ミルクティ」(ミティと聞こえる)
と言われ、確かにそのとおりだと思いつつ、わたしにとって大事なことを確認してみた。
「甘いですか?」

「アマイ」

きっと、ものすごく甘い。わたしは甘いチャイは苦手なのだ。
だけど、なんのためらいもなく「アマイ」と言った彼女の口調には、〈甘くないチャイはチャイではない〉という強さがあり、砂糖を抜いてくださいと言える雰囲気ではなかった。
どうせ甘い飲み物しかないなら……と、ラッシーを頼んだ。

リクトもラッシー。こういうインド料理の店も、ラッシーという飲み物も、初めての経験だと思う。もしかすると、インド人に会うのも。
ちょっぴり緊張しているリクトの表情。目が泳いでいる(笑)

わたしたちは入口近くのテーブルで向き合って座っていた。
わたしからはリクトの顔とドアしか見えないのに対して、リクトは、わたしの背後に拡がるものが見える。
厨房のオーナーっぽいインド人と、スタッフっぽいインド人、カウンター横で待機しているインド人のお姉さん、店内のテーブルで食べているインド人二人の姿が、全て目に入るので、きっと落ち着かないのだろうと思う(笑)
店内に流れる会話も、たぶん、ヒンドゥー語? まったく何を話しているのかわからない。

「外国に行ったら、こんなふうなんかな」
「たぶん! 行ってみたら?」
「うん。行きたいけど、一人はちょっと……。しゃべられへんし」

そりゃあ、心細いよね。
この日は、三者懇談の帰りだったのだが、わたしたちの前に懇談をしていた子は、九月からアメリカに留学し、来年、一つ下の学年に復学するそうだ。
その御家庭は、御両親も留学経験があり、当初からそのつもりで高校入学されているようだった。海外旅行にもよく行っているらしい。

(すごいなあ)

「背も高かったし、顔もかっこよかったよね」
「おかあさん、いっつも、そんなこと言ってるやん」
「だって、みんな、顔ちっちゃくてかっこいいねんもん」(嬉々)
「その人、クラスのムードメーカー的存在やから、いなくなったら、クラスの雰囲気が変わるかも」
「さびしいね」

(留学しようという人は、やっぱり、積極的で、リーダーシップもあるのだ)

まず、ラッシーが運ばれてきた。

(まっしろ!)
(さらさら!)

リクトの学校は最寄駅まで徒歩で二十数分かかる。夏は堪える。
懇談でしゃべり疲れ、歩き疲れた喉に、甘くて冷たいラッシーはとてもおいしかった。
ごくごく飲んだ。

サラダもやってきた。
千切りのキャベツにコーンのトッピング。オレンジ色のドレッシングがかかっている。
もりもり食べていると、お姉さんが大きな銀のトレイを掲げてやってきた。

「ヒガワリ、ト、ホウレンソウ……」
と言いながら、わたしとリクトのどちらの前に置こうかと目で尋ねている。
「はい! わたしです!」
手をあげた。
トレイが前に置かれる。

「わーーーー。すごーーーーい」

ナンが大きい!!

おいしそうに、ぷっくりふくれたナンが、トレイからはみだし、ほかほかの湯気をたて、バターがツヤツヤ光って流れている。
カレーもおいしそうだ。
リクトのセットもすぐにやってきた。

「うまい」

子どもがおいしそうに食べる姿を目にすると、本当に幸せな気持ちになる。

特にリクトは、小さいころから、食べ物をおいしそうに食べるので、おじいちゃんやおばあちゃんをはじめ、まわりの人に、かわいがられている。

「腹いっぱいになってきた」

メニューには、 「ナン、ごはん、おかわり自由」と書いてあったけれど、とてもじゃないけれど、一枚分すら食べきれない。
リクトも苦しそうだ。
お姉さんが、「ナンノオカワリハ」とテーブルに来てくれたので、もう、おなかいっぱいですと答える。日本人で、おかわりする人なんているのだろうか?
ほのかに甘く、ふくらんだナン。バターもたっぷり塗ってあるし、大きさもハンパない。本当に満腹。

リクトの話では、この店は最近インド料理店になったばかりで、その前はラーメン屋だったそうだ。
言われてみれば、厨房もカウンターの造りも、ザ・ラーメン(笑)

ラッシーの残りを、ストローでちゅるるとすすって、

(さーて、帰ろう♪)

と、リュックをあけると……

(!!!)

(さ、さいふがないっ)
(まさかーーー)


そのとたん、前日にネットで買い物をして、クレジットカードの番号を打ち込んだあと、そのまま財布を机の上に置きっ放しにしていたことを思い出した。
そのまま出勤して、退社して、電車に乗って、リクトの学校の最寄駅では、イコカで乗り越し精算したので、一度も財布を使うことがなかった。
まったく気づかなかった。

(がーーーん)

実は、わたしはよく財布を入れ忘れるので、財布以外にも、リュックのポケットや、手帳のあいだに、お金を持っていることが多い。

ところが、数日前に別のカバンで出かけたため、中身一式を入れ替えていて、このときは、ほんとうに何も入っていなかった。まさかの時に備えて紙幣をはさんである手帳も入っていなかった。

(がーーーん)

どこかに何か入っていないかと、リュックのポケットというポケット、パスケースのポケットを、必死で調べる。

(ない)

チャージをするための千円とか、財布を忘れたとき用の千円などを入れているときもある……、それって、いつの話だ?

(ないっ)

リュックの底に、小銭が落ちて……

(ないっっ)

「リクト、おかあさん、財布忘れちゃった」
「えっっっっ」

そんな顔しないでよーーーーっ

「お金、いくら持ってる?」
「えーーーーーーっ オレ、そんなに持ってない」

(高校生なんだから、三千円くらい持ってるやろ?)

「いくら?」
「千……」
「ええっ それだけしか持ってないの? なんで? このあいだの靴のおつりは?」

(先日、学校指定の革靴を買うのに、一万円持たせたのだ。靴代は八千円)

「それを入れて、せん、ななきゃく……」
「えーーーーっ 千七百円?」

(どうしよう……)

「定期入れとか、ポケットとか、どこかに持ってないの? 教材のおつりとか。あ! 修学旅行の時のお金は?」
「ないない」
「おかあさん、封筒に入れて渡したやろ? どこに入れたっけ? キャリーバックのほうやった?」
「もう、出した」
「ほんとに?」

―わたしがリクトを責めるのは、まちがっています―
 
「おかあさん、なんで、サイフ持ってないのに、お店入るの?」
「ごめんーーーっ だって、今日、お財布つかわへんかってんもん」
「普通、気づくやろ?」
「わからへんかってんもん」
「定期入れとかにさ、千円くらい入れてないの?」
「さっきからみてるねんけど……」

何回見ても、ないものは、ない。
今日に限って、本当に、どこにも、ない。
いつもは、財布からこぼれた小銭がリュックの底に落ちていたりするのに、それも、ない。


「イコカは?」
「チャージの残り、二千円くらい。駅に行ったら、現金で返金してくれるかな?」

(最悪、事情を話したら、やってくれるかな。JRの駅はすぐ目の前だ。でも、無理やろうなあ)

「しょうがないなあ。お金、家に取りに帰ってくる」
「ええっ オレ、残るの?」

(そんな、この世の終わりみたいな顔するなーーー)

「じゃあ、リクト、取ってきてくれる?」
「ええーーーっ また、ここに戻ってくるの?」
「うーん……。いっしょに帰って、おかあさんだけ戻ってくるって言って、大丈夫かなあ」

どちらかが残っていれば確実だけど、二人とも店を出ていく場合、必ず戻ってくるということを、どうすれば信用してもらえるだろうか?
何を置いていこう?

・荷物一式?
・職員証?
・念書?


しかし、この提案を、インド人にわかる日本語で、どんなふうに説明すれば、理解してもらえるだろうか。
なんだか、本当に異国にいる気持ちになってきた。
そもそも、彼らに職員証や、念書の文字は読めるのか?

ジェスチャー?

そのとき……

「あっ」

と、リクトがニカニカし始めた。

希望の光

「どうしたん? お金あるの???」

(リクトーーー!!!)

「もしかしたら、あるかも」
「修学旅行のお金?」

リクトは応えない。応えず、ニカニカ。
ニカニカしているリクトが、おもむろに取り出したのは、ペンケース。
図工で使った彫刻刀ケースみたいな、大きなものだ。
そのファスナーをあける。

「え、お金入ってるの? おつり? 模試の返金? なに?」

ニカニカニカニカ。
もったいぶって、手品師みたいに中敷きをめくる。

「ちゃらら~ん」

そこから出てきたのは…… 茶封筒。

〈3000円 浜田リクト〉

なんと、わたしの文字。

6月下旬に行った修学旅行のお小遣いのほかに、足りなくなったときの予備でもたせていたものだ。

「やったー。三千円!! リクトすごい! やったーっっっ! なんで、ここに入ってるの? 旅行に持っていったやつやろ? なんで?」
「帰ってきて、入れ替えたとき、どうしようかなーと思って、なんかあったときに使えるかもと思って、筆箱に入れたことを思い出した」
「やったー。すごい! えらい!」

ガッツポーズのリクトとわたし。

(これで帰れる!)

と、そこに、しずしずとインド人・キュート・豊満・ウェイトレス。
わたしの後方に、ひっそりと立って、小さく耳打ち。

「サイフ、ワスレタラ、アトデイイ」

(ぎゃああ、バレていた!)

思わず、

「ノープロブレム」

言ってしまった瞬間、

(英語やろ、それ)

とツッコミを入れ、笑顔で言い直す。

「ダイジョウブ、アッタ!」(なぜか、カタコト)

封筒をヒラヒラさせる。(なんのことかわからなかったと思うが)

本当によかった。
しかし、なぜ、バレていたのか?

・わたしとリクトの会話(日本語)が通じていた。
・わたしたちは、あまりにも挙動不審だった。


たぶん、両方だろう。
まず、母親とおぼしき女性がカバンの中をくまなくあさりはじめ、ポケットや手帳やパスケースのすみずみまで、確認したあと、息子とおぼしき制服の男児に声をかけ、次に男児が、財布の小銭を机に並べて、カバンのポケットを探しはじめ、再び、母親とおぼしき女性がカバンやパスケースをひっくり返し……

(バレますよね)

しかし、本当に助かった。三千円。レジで払ったのは、二千七百五十円。

神様のジャストな采配。

封筒はヨレヨレで、えんぴつで書いた文字も薄れて消えかけていた。
修学旅行中の息子の万事に備えて持たせたお金が、修学旅行後に息子ではなくわたし自身を救う。
おまもりって、ありがたい。

備えあれば憂いなしだ。

家に帰ったら、カバンや手帳に、紙幣を仕込んでおこう(笑)

それにしても、知らないって強い
しかも財布がないとわかったのは、ぜんぶ食べ終えて満腹になったあとだ。
なんて、幸せなんだろう。

お金もないのに、一番安いのではなく、二番目に高いコースを食べた。
食べている途中で気づいたら、味わうどころではなかった。
食べる前に気づいたら、そもそも外食はできなかった。

そして、お店の人の親切。
わたしたちの様子を見て、店主がどうするかを決め、やりとりがあり、ウェイトレスの子が小声でささやきに来てくれた。
初めて訪れた見ず知らずの母子に、さしのべてくれる手。
無銭飲食されるかもしれないのに。

(しないけど!!)

***

何か大きなものに、いつも守られている気がします。
そのことに、心からの感謝を。

だから、いつも笑顔で。


浜田えみな

CIMG4186_convert_20110124214251.jpg

リクトが5年生の時に、社会科の授業で沖縄の勉強をして、図工の授業で作ったシーサーは、なぜか、妹のコツメ(現在中2:仮名)の笑顔にソックリ。
この子の名前は、ぽっぷくん。命名はコツメです。今も、うちの玄関でみんなを守ってくれています。

※ 後記
インドカレーのお店だったので、よく知らずに「インド人」と書いてしまいましたが、日本のインド料理のお店で働いているのは、インド人よりも、パキスタン、ネパール、バングラディシュ、スリランカなどの国の人が多いそうです。
コックさんと従業員の国籍も必ずしも同じではないらしいので、このお店の店員さんたちが、どこの国の人なのかは不明です。今度、お店に行ったら訊ねてみようと思います(^^)
また、大きなふわふわのナンはインドではなく、パキスタンで食べられているものらしいです。そして、形は、日本で出される三角みたいな形ではなく、丸いそうです(**)
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浜田 えみな

Author:浜田 えみな
こんにちは! ブログに来てくださってありがとうございます! H11生まれの長男と、H14生まれの長女の二児の母です。文章を書くことが好きなので、フルタイムで仕事をするかたわら、あれこれ書いています。H26年8月に薦められた短歌にハマり、現在その世界観を模索中です。よろしくお願いします。